全国の絵本屋さん3000人が選んだ「今年もっともおすすめしたい絵本」を決定するMOE絵本屋さん大賞。
2月3日に発売されたMOE2月号で、『第15回MOE絵本屋さん大賞2022』が掲載されました。
いつも「どんな絵本選ぼう?」「どの絵本が子供にいいのかな?」と悩んでいる方にとっては、注目のランキング。
第1位は鈴木のりたけさんの『大ピンチずかん』(小学館)、第2位はヨシタケシンスケさんの『かみはこんなに くちゃくちゃだけど』、そして第3位にしおたにまみこさんの『さかなくん』が受賞しました。
今回は、その中でも3位を受賞し、私も大好きな『さかなくん』について、あらすじや魅力、作者のしおたにまみこさんについて触れていきます。
作者のしおたにまみこさん、実はその画力を賞賛され、海外でも注目の作家さんなんです。
絵本『さかなくん』MOE絵本屋さん大賞2022受賞作 - あらすじ
まずは、絵本「さかなくん」のあらすじについてご紹介します。
「さかなくん」の主人公はさかなくん
この本の主人公は、タイトルにもある通り「さかなくん」です。
黄色いボディに水色のヒレ、クリクリおめめで、何とも目が離せなくなる愛らしいフォルムや表情が特徴。
小学生のさかなくんは、毎日学校に通っています。
特別な名前もなく、ストレートに「さかなくん」という名前なのには、お話を読み進めていくうちに、なんとなくストンと腑に落ちます。
「さかなくん」のあらすじはこちら
このお話は主人公「さかなくん」の日常のものがたりです。
あらすじ
さかなくんは、さかなですから水の中で暮らしています。小学校に行くときは、ゴムのズボンをはいて、水でいっぱいのヘルメットをかぶって、ひれにはクリームを塗って……と、ひと仕事。でもきゅっきゅと歩いて通う小学校をさかなくんは好きなのです。ただ、ひとつ、体育の時間だけはきらいでした。なぜなら、さかなくんは走るのが苦手だから……。
「走るのが苦手」なさかなくんが、何に悩み、誰と一緒にどう解決していくのか、が優しい目線で綴られています。
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絵本『さかなくん』MOE絵本屋さん大賞2022受賞作 - 3つの魅力
ここでは、MOE絵本屋さん大賞2022受賞作「さかなくん」の3つの魅力に迫ります。
「さかなくん」魅力① 繊細なタッチの「美しすぎる画」
絵本さかなクンの魅力は、なんといってもまずこの優しく、美しすぎる色彩。
私が本屋さんで思わず吸い込まれ、手に取った理由も、この優しい絵でした。
子供向けの絵本といえば、はっきりとした色彩、くっきりとしたラインのものが多い中、この絵本は色鉛筆と水彩を使い、全体的にふわりと淡い色調で異彩を放ちます。
芯をついたテーマを小難しくせずに、心の奥に届けてくれるのは、この絵のおかげかもしれません。
主人公のみならず、他の登場人物や背景など、丁寧に描き込まれた細部の描写も見事。
特に、文字もなく見開きで描かれている「水の中にあるさかなくんの家」は、思わずため息がこぼれてしまいます。
「さかなくん」魅力② 大人も唸る「多様性」の表し方
この絵本のすごいところは、主人公の「さかなくん」が人間の学校に通ったらどうなるか、を描いた作品ではないところです。
さかなくんも、トカゲさんも、にんげんくんも、姿形のさまざまないきものが、さらりと普通に、一緒に学校に通っている前提で物語は進みます。
水の中でしか生きられないさかなくんの苦手なこと、大変なこと、でも好きなこと。
近年色々なところで耳にし、子育て世代にとっては大切にしたい視点である「多様性」とか「個の尊重」について、そしてその歩み寄り方について、優しく描かれています。
ちなみに、登校中や授業中のシーンをよく見ると、指を細かく動かせないキツネさんの手にペンを持ちやすくする道具が添えられていたり、ネコさんの帽子には耳用の穴が空いていたり、しっかりと書き込まれています。
「さかなくん」魅力③ ファンタジーなのに「リアル」
この絵本を小学校で読み聞かせすると、「長いお話なのにじっくり聞いてくれた」「子供たちの集中力がすごい」そうです。
「さかな」を初め色々な生き物が一緒に生活する世界と言う、振り切ったファンタジーなのにも関わらず、そこに描かれているのは、学校であり、授業であり、友達。
子供たちにとってどんな世界でも「自分と同じ目線」を描いたこの作品は、とても近いものに感じるのかもしれません。
絵本『さかなくん』は何歳向け?おすすめは?
続いて、絵本を探す上でみなさんが気になる対象年齢について、ご紹介していきます。
「さかなくん」は公式には「4歳以上」向け
この絵本の物語をしっかり理解していくのは、おそらく4歳以降でないと難しいかもしれません。
前記した通り、ほのぼのとしたトーンの中に、奥深い「多様性」や「個を尊重すること」が描かれているので、大人にも刺さる内容になっています。
「さかなくん」宝探し気分で「1歳児」も楽しめる
公式には4歳以上が対象ですが、目を引く主人公「さかなくん」を初め、作家しおたにまみこさんが描く細かな背景描写を、我が家の1歳の息子はいつも楽しそうに眺めています。
「ここにネコさんがいる」「ちゅんちゅんはどこ?」など宝探しのように親子で指を刺して楽しみます。
絵本には対象年齢がつきものですが、どんな楽しみ方をするかは、その親子次第と私は思っています。
「さかなくん」は「自分の苦手なこと」を意識し出した子供向け
1歳児でも楽しめると言いましたが、ストーリー目線から言うとおすすめなタイミングは「これが苦手」とか「誰々がうらやましい」とか、「他者との違い」に気づき始めたお子さんと、その親御さんにはおすすめの内容です。
大人に「人はそれぞれ違うから、他の人の違いも受け入れて・・」なんて言われていない、まだフラットな先入観のないタイミングで、こういう物語に触れさせてあげられればいいですよね。
この本に触れながら自分の苦手をどう解決していきたいか、人との違いをどう受け止めるか、一緒に考えるきっかけになるかもしれません。
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絵本『さかなくん』作者しおたにまみこって?受賞歴は?
最後に、美しい色彩で、深いテーマを描いた作者「しおたにまみこ」さんについて少し紹介しますね。
『さかなくん』作者「しおたにまみこ」さんプロフィール
しおたにまみこさんは、1987年生まれ。
女子美術大学の工芸学科陶コースを卒業した後、アニメーションの背景美術制作会社勤務を経て、絵本制作をはじめています。
2014年には「やねうらおばけ」で第15回ピンポイント絵本コンペ優秀賞受賞。
この受賞展示会に来ていた編集者に誘われ、2018年『そらからきたこいし』(偕成社)で絵本作家としてデビューしています。
この最初の作品がなんと、第11回MOE絵本屋さん大賞新人賞第2位受賞、そして『たまごのはなし』がブラチスラバ世界絵本原画展の金牌を受賞して、一躍注目の的となった、今世界でも注目の作家さんです。
ブラチスラバ世界絵本原画展(BIB=Biennale of Illustrations in Bratislava)は、1967年に始まった歴史ある絵本原画のコンクールです。スロバキアの首都ブラチスラバで、隔年に開催されています。ひとつの国から最大15人の画家しかエントリーできないため、JBBYが国内選考会を実施して出展画家と作品を選びます。
BIBオフィシャルサイトはこちらから
『さかなくん』キノベス!キッズ2023も受賞
国内外の様々な賞を受賞しているしおたにまみこさんですが、『さかなくん』はMOE絵本屋さん大賞2022に加え、キノベス!キッズ2023も受賞。
過去1年間に出版された新刊を対象に、紀伊國屋書店で働く全スタッフから公募した推薦コメントをもとに選考される「キノベス!」。
その児童書・絵本を大賞とした「キノベス!キッズ2023」の第3位を受賞しています。
絵本『さかなくん』MOE絵本屋さん大賞2022受賞作の3つの魅力まとめ
ここまでMOE絵本屋さん大賞2022で3位を受賞した絵本『さかなくん』について、そのあらすじや3つの魅力、作者のしおたにまみこさんについてご紹介しました。
「多様性」や「個の尊重」など今旬なテーマを、穏やかな視点で、優しく描き切った絵本『さかなくん』。
MOE絵本屋さん大賞は絵本屋さんがセレクトしているだけあり、いつもしっかりと子供に伝えたい内容を有した作品が受賞していて、私は安心して絵本選びのきっかけにさせていただいています。
絵本『さかなくん』を子供と一緒に眺めながら、大人の自分にも「当たり前にしたい価値観」浸透できたらと願っています。
書名:さかなくん
作・絵:しおたにまみこ
定価:1,300円+ 税
サイズ:23cm×19cm
ページ数:32ページ
発売日:2022年5月11日
出版社:偕成社